コラム

2026年08月04日

系統用蓄電池で深刻化する「空押さえ問題」とは? 〜接続ルール見直しと新たなビジネスチャンス〜

再生可能エネルギーの拡大とともに、今、急速に注目を集めている「系統用蓄電池」。
電力需給の調整や出力制御対策、再エネの有効活用を支える重要インフラとして、多くの企業が参入を進めています。

しかし、その一方で2025年以降、大きな課題となっているのが「空押さえ問題」です。

系統接続申込みの急増により、本当に事業化を進めたい企業が接続できないケースも発生し始めています。
こうした状況を受け、政府や一般送配電事業者は新たな抑制策や接続ルールの見直しを進めています。

今回は、系統用蓄電池を取り巻く最新動向と、今後のビジネスモデルについて解説します。

「空押さえ問題」とは?

「空押さえ」とは、事業化の確度が低い段階にもかかわらず、とりあえず系統容量だけを確保(予約)する行為を指します。

系統用蓄電池市場が急拡大する中で、多数の事業者が接続申込みを行っており、その中には、

  • 具体的な資金調達計画が未定
  • 用地が未確保
  • 実際の着工時期が不透明

といった案件も多く含まれていると言われています。

その結果、

  • 本当に事業化したい企業が「空き容量なし」で断られる
  • 接続検討が長期化する
  • 系統増強コストの見通しが悪化する

といった問題が深刻化しています。

政府が検討する2つの新たな抑制策

この状況を受け、政府(次世代電力系統ワーキンググループ)は、2025年末から新たな対策の導入を検討しています。

① 保証金制度の厳格化

これまで比較的低額だった保証金を引き上げることで、「とりあえず申込む」という行為を抑制する方針です。

つまり、

  • 資金力
  • 事業化確度
  • 本気度

の高い事業者を選別する狙いがあります。

今後は、接続申込み時点で一定規模の資金準備が求められる可能性が高まっています。

② 工事費負担金ルールの見直し

系統接続に必要となる送電網増強費用(工事費負担金)についても、制度見直しが進んでいます。

これまでは柔軟な分割払いが認められるケースもありましたが、今後は、

  • 早期支払い
  • 分割条件の厳格化
  • 資金計画審査の強化

などが検討されています。

これにより、資金調達能力の低い案件は自然に淘汰されていく可能性があります。

接続ルール見直しで進む「情報公開」

系統用蓄電池を効率よく導入するためには、「どこに接続しやすいのか」を把握することが極めて重要です。

現在、一般送配電事業者では情報公開の拡充が進められています。

順潮流側の空容量公開へ

従来は、発電設備から送電網へ流す「逆潮流」の空容量情報が中心でした。

しかし蓄電池は、

  • 充電(電力を吸い込む)
  • 放電(電力を流す)

の両方を行うため、「順潮流側」の容量情報も重要になります。

今後は、蓄電池事業者向けにより詳細な空容量情報が公開され、立地選定がしやすくなる見込みです。

ウェルカムゾーンマップとは?

現在、多くの一般送配電事業者が公開しているのが「ウェルカムゾーンマップ」です。

これは、

  • 接続しやすいエリア
  • 系統増強負担が比較的小さい地域
  • 比較的早期接続が可能な場所

などを示した参考マップです。

特に北海道エリアでは、蓄電池適地をより具体的に提示する仕組みも検討されており、今後さらに情報公開が進むと期待されています。

「ノンワイヤーズ・オルタナティブ」という新しい考え方

近年注目されているのが、「ノンワイヤーズ・オルタナティブ(NWA)」という考え方です。

これは、送電線を新設・増強する代わりに、系統用蓄電池を活用して混雑を緩和するという手法です。

特に、

  • 山間部
  • 離島
  • 送電網整備が難しい地域

では、物理的な送電線増強よりも低コスト・短期間で対応できる可能性があります。

今後、蓄電池は「電力を貯める設備」だけでなく、“送電インフラの代替手段”としての役割も期待されています。

系統用蓄電池の主なビジネスモデル

① 市場運用モデル(独立型)

電力市場価格の変動を利用して収益を得るモデルです。

例えば、

  • 安い時間帯に充電
  • 高い時間帯に放電

することで、価格差収益(アービトラージ)を狙います。

さらに、

  • 卸電力市場
  • 需給調整市場
  • 容量市場

など複数市場へ参加することで、収益最大化を目指します。

メリット

  • 高収益化の可能性
  • 収益機会が多い

課題

  • 市場価格変動リスク
  • 高度な運用ノウハウが必要

② 再エネ併設・マイクログリッドモデル

地域や施設単位で、

  • 太陽光
  • バイオマス
  • EV
  • 蓄電池

などを組み合わせるモデルです。

災害時にも独立して電力供給できるため、地域レジリエンス向上にも貢献します。

近年では自治体を中心に、地域循環型エネルギーの取り組みが広がっています。

③ オンサイトPPA連携モデル

工場や商業施設の屋根上太陽光(オンサイトPPA)と蓄電池を組み合わせるモデルです。

昼間の余剰電力を蓄電池へ貯め、夜間利用することで、

  • 電気料金削減
  • 再エネ活用率向上
  • 非常用電源確保

などのメリットがあります。

さらに、

  • 自己託送
  • 市場売電
  • マイクログリッド化

など、複数の活用方法との組み合わせも可能です。

まとめ

系統用蓄電池市場は今後さらに拡大していくことが確実視されています。

一方で、

  • 空押さえ問題
  • 接続ルール厳格化
  • 工事費負担増加

など、市場成熟に向けた課題も表面化してきました。

これから事業参入を検討する企業にとって重要なのは、

  • 制度変更を常に把握すること
  • 接続しやすい立地を選ぶこと
  • 複数の収益源を組み合わせること

です。

今後5〜10年で、蓄電池は単なる設備ではなく、日本の再エネ社会を支える重要インフラへと進化していくでしょう。

そして、その変化を先取りできる企業こそが、次世代エネルギー市場の主導権を握っていくことになります。

この記事を書いた人

系統用蓄電池情報局 編集部

系統用蓄電池・電力市場・再生可能エネルギーを専門とする編集チームです。最新の市場動向から基礎知識まで、わかりやすく発信しています。